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2012年3月 7日 (水)

日記:兄の死

日記:兄の死

電話やメールでは連絡が取れず、訪問しても本人は出ない。
様子がおかしいので、警察官立ち会いの下、マンションの部屋を解錠。
入室したら、すでに遅かった。

予想されたことだが、何もできなかった。
まるで、数ヶ月前のあの時と同じだった。

自分より4つ年上の兄は長男で、2つ上の次兄との三人兄弟。
大学院を出た兄は、東京の某予備校の講師だった。
結婚してひとり息子もできたが、離婚し、息子は相方へ。
荒川、尾久のマンションに一人で住んでいた。
酒とタバコが大好きだったが、タバコだけは十年ほど前にやめていた。

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(兄は都電荒川線が好きだった。)

昨年の11月のある日、一人住まいのその部屋で倒れた。
翌日、何の連絡もないのを不審に思い職場の方が尋ねてきて分かった。
風呂上がりに脳梗塞で倒れ、そのままの姿で一日近くがたっていた。
救急隊が隣から窓をあけ、ようやく中へ入り、運び出す。
その間の記憶が本人にはまるでない。
打ち所が悪かったのか、身体や記憶に障害が出ていた。

最初に救急患者に対処した救急病院が、病状と今後を心配し、
とにかく近親者をということで身内を調べ、次兄に連絡してきた。
すでに二週間が過ぎていて、そこでようやく事態を知らされる。
重い病状から本人はうまく話せず、その後の対応もできなかった。
着替えその他入院中のあれこれが応急でされただけで止まっていた。
入院や診療費用の支払い能力が分からないから、それ以上は無理と。
とりあえず、身の回りを整えることなどから行った。
今後のこともあり、本人とともにマンションに戻る。
あの日からの新聞他がたまり、その他はそのままだった。
風呂の電源は入りっぱなしで、湯が減っていた。
すえた匂いの残る洗面周辺をとにかく片づける。
部屋のその他は、本人の性格から、きちんと整頓されていた。
病院から、パジャマの上に次兄のコートを応急で羽織った本人は、
カードで金をおろす時、暗証番号を一度だけミスした。
部屋ではすぐにパソコンの前に座り、メールのチェックをしている。

昨年の三月、次兄の娘、姪の結婚式があった。
この男三人兄弟の子どもとしては初めてで、何十年ぶりの再会だった。
東京の長男は、昔の厳しい表情は薄れ、すっかり好々爺な面持ちで現れた。
式の後、持参した折り畳み自転車で軽い旅に出る準備の良さだ。

023

理科系思考の彼は、昔からおやまの大将で頑固だった。
自分の信じるものがすべてで、文化系や軟弱路線を全否定した。
その志向を弟の自分たちに押しつけた。
何にでもケチをつける、これがいやでたまらなかった。
家が貧しかったこともあるが、節約と我慢に徹し、
地形学のフィールドワークに出ると、食事代も切りつめて歩き回っていた。
社会人になってからは多少は羽振りも良くなったが、
楽をするなど決して認めず、がつがつと自分を追い込んでいた。

医者によると、まずは治療をし、リハビリを行うこと。
今後は、ひとりでは無理だから病院施設へ、と。

しかし、これはうまくいかなかった。
医者の見立てでは何もできないはずの本人が、
その扱い方に怒り、勝手に病院を抜け出してしまった。
そして、自分のマンションに戻り、玄関前にずっと立っていたという。
病状から、部屋の鍵は本人に渡されていなかった。

そんなこともあり、次がみつかるまで通院と要観察のもと、自宅で。
次の施設では、認知症のテストをされるが、本人はその裏をかく。
話をしていると、脈絡のないことがあり、記憶も切れている。
何度も同じことにこだわる。でも分かっていたのだろう。

そして、周囲が止めるのも聞かずに沖縄へ旅行に出てしまう。
飛行機の手配など、慣れたことのように自分で行っていた。
沖縄でも一悶着あったらしいが、ひとりで帰ってきた。

地区の保護観察役の方が訪ねると、それなりに在宅。
閉じこもりではなく、買い物へも行っていたそうだ。

そんな矢先の空白。

決して無縁社会の弧族ではない。
いつも自分の好きなことをやり、最後も同じ。
息子にも、形あるものを残していた。

冥福を祈る。

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