映画『若葉のころ』(110分)、2015年、ほか
映画『若葉のころ』(110分)、2015年
製作総指揮:リャオ・チンソン
監督・原案:ジョウ・グータイ
脚本:ユアン・チュンチュン
出演:ルゥルゥ・チェン、リッチー・レン、シー・チー・ティエン、アリッサ・チア
『台北に住む17歳の女子高生・バイは、ピアノ教室を営む母・ワンと祖母の三人暮らし。
ある日、ワンが交通事故に遭い意識不明の重体となってしまう。
そんな折、ワンのパソコンに未送信のまま保存された一通のメールを見つける。
それはワンが17歳の頃の初恋の相手であったリンへのメールだった。
時を同じくして、設計事務所で働くリンは、実家の部屋からビージーズの
「若葉のころ」のレコードを見つけ、高校時代のことを回想し始める。』
先週は観たい映画がたまっていて六本の作品を続けてみることになった。
『海よりもまだ深く』、刈谷日劇でヘルツォーク特集の『フィツカラルド』『アギーレ・神の怒り』、
伏見ミリオンで『団地』『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』、そして名演で『若葉のころ』。
『海より~』は先述、『団地』は大阪弁の間のとりかたが絶妙というか上手いの一言、
『マイケル・ムーア~』は得意の展開で突撃インタビューから最後はきちんとオチをつけるもの、
どちらも評判どおりというか期待通りのできばえで、観て満足し納得のいくものだった。
印象度合いから言えば、刈谷日劇のヘルツォーク作品が飛びぬけている。
今から数十年前のアマゾンの奥地で、350トンの大きな船が人力と知恵でもって山をのぼる、
そしてなんともっとさらに恐ろしい、下る、ということをCGなどなしでやってのける。
オペラに取りつかれた寺田農似の男が、蓄音機で文明開化よろしく進出する。
また、踏み外せば数百メートルの谷底へまっさかさまのアンデス山中の狭い険路を、
大名行列よろしく鎧甲冑姿で歩き、偉い人については籠に載せて運んでいる。
身分が高いからといって籠に載せられているほうがずっと危険でリスクは高い。
猿投山の武田道を昔、毎日、籠で通った神官よろしく、自分の足も使えない、とは。
そしてこの『若葉のころ』。
作品としての出来栄えはそんなに秀でたものではないが、感情はしっかり揺さぶられる。
というか、なつかしの音楽がからんだ学園もの、初恋ものがノスタルおじさんにはたまらない。
港台映画というのも、なおいい。
香港映画でおなじみのリッチー・レンて、台湾の彰化県の出身だったのか。
作品の音楽や背景として使われる、ビージーズの「若葉のころ」。
個人的にはホセ・フェリシアーノがカバーしていたそれが印象に強い。
学生の頃、I先輩が持っていたLPで、古いステレオでよく聞いたものだ。
あの歌詞は、英語が得意ではなくても、だれもが和訳に挑んだにちがいない。
これとかサイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」とか。
教科書以外で英語の原語で分かる、なんて機会はそんなにあるものではなかった。
そこら辺は国は違っても同じというか、憧れの外国語という感じで使われている。
歌詞の意味に踏み込んで、さらに、自分の心情をも表現している。
そんな母の昔の恋に、娘が願いを込める。
それはともすると感傷に流されやすいものだが、それ以上に重いものがどんと立ち塞がる。
ひとつは、現在17歳のバイの身近で起こること。
いつも一緒、トイレに行くのも同じという一番の友との間で、修復不能の事件が起こる。
三角関係だからとか、誤解を解くとか、あやまれば解決できる問題ではない。
これがあったから悩み、母の恋のことも考えるようになったかもしれない。
もうひとつは、母が17歳のとき、母に気持ちを寄せるリンに起こった出来事。
当時の台湾は韓国と同様、戒厳令とかがあった時代で、自由はないに等しい。
政府や学校・先生が言う事は絶対で、逆らう事も意見を言う事もできない時代だ。
体罰も当たり前で、どんな理由があっても、どんなに理不尽なことでも受け入れる。
そこに、あの若い憧れの英語の先生が、生徒指導の鬼教師とアレだから、ね。
それをなんと、生徒指導室の続き部屋で目撃する、だなんて衝撃的すぎるわ。
とも思うが、世の中の悪というのは、見かけというか表面はおよそきれいなものだ。
規則やきまりにうるさくて、それを振り回す輩こそ、裏で何をやっているかわからない。
そんな大人の世界の汚いものに触れ、追われるように去っていったリン。
数十年後、あるコンサートの会場で会う、ふたり。
リンは彼女を連れていて、ワンは娘のバイと一緒に聴きに来ていた。
これが、映画の冒頭シーン。
さてその後は、どうなるんでしょう。
予告編や作品中でも、またスチル写真でもはっとする場面が多く見られる。
監督がMV制作などに長けた人だからのよう。
それなりに意味があって、そのシーンに心が奪われてしまう。
でも屋上からレコードを円盤よろしく投げるシーンて、どんな意味があるのか。
とても象徴的な場面だが、レコードは権力に抵抗して捨てる対象ではない。
学校生活というのを物語として感傷的にみると、それは確かに面白い。
でも実際は、思い出したくないこと、傷ついたこと、苦しいことも多かったはず。
それらをひっくるめて記憶のオブラートに包めば、何でもアリだけどね。
お勧め度は ★★★ 名演小劇場にて
ちなみに先にあげた作品群にも印をつけると
『団地』 お勧め度は ★★★★ 伏見ミリオン座にて
『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』 ★★★ 伏見ミリオン座にて
『フィツカラルド』 ★★★★ 刈谷日劇にて 残念ながら上映終了
『アギーレ・神の怒り』 ★★★ 刈谷日劇にて 残念ながら上映終了
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